あるダックスフンドとその飼い主のお話。
〜ダックスフンドのお姫様
知らない街で、旅に出る〜
あるところに黒と茶の混ざった
毛並みの綺麗なダックスフンドがいました。
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そのダックスは少しだけ特別で、
世界中の多くの人が知っている
有名な犬でした。
彼女はまるでお姫様のように
飼い主に可愛がられ
すくすくと育ちました。
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ところがある日
彼女は気がついたのです。
いつも自分の名を呼び
語りかけ、キスばかりせがんできた
寂しがり屋の飼い主としばらく
会っていないことを。
『わたしの飼い主は一体
どこにいるのかしら?』
疑問に思った彼女は
飼い主を探そうと、
ひとり歩き出しました。
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右も左も知らない道を
飼い主を探すため一生懸命
進みました。
ときに走ってたまに歩いて
疲れたら少し休んでまた
知らない道を前へ、前へ。
彼女はとても疲れました。
細く小さな足で歩くには
大変な道のりだからです。
心細い夜もやってきました。
知らない土地をひとり
ポツポツと歩くなか
夜空の星たちが彼女を照らしていました。
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それにしても彼女は
自分があまりにも
有名な犬であることは
知る由もありません。
ましてやこのお姫様の冒険が
世界中を巻き込んだ大騒動と化している
など少しも気づくはずがないのです。
彼女はただ、飼い主に
会いたかっただけでした。
今日もまた心細い夜がやってきます。
川岸へとたどり着いた彼女を
急に寂しさが襲いました。
『どこにいるの?
わたしはここにいるのに!
どこにいるの??』
彼女は何度も何度も
どこにいるのか分からない
飼い主に向かって叫びました。
しかしあたりは真っ暗で
相変わらず彼女を照らしているのは
夜に輝く星だけでした。
また明日...また明日探せばいい。
諦めないんだから...!!
寂しさを押し殺すようにそう言い聞かせ
川岸の砂利の上、疲れ果てた体を休ませるため
くるりと小さく丸まり大きな瞳を閉じました。
次の瞬間、すぐ隣で
あまりにも聞き慣れた声が
自分の名前を呼んだのです。
『・・・!!』
顔をあげるとそこには、ずっと
会いたくて焦がれた飼い主が
そっと寄り添うように座っていました。
『ひとりで来たの?
こんなとこに来ちゃダメじゃない。
みんな心配しているよ?』
飼い主はいつものように微笑んで
怒っているのかどうなのか
分からない調子で彼女をしかります。
『あなたに会いに来たんじゃない!』
ようやく出会えた嬉しさ半分、
近頃姿を見せないそちらが悪いと
言わんばかりに少々きつめに飼い主へ
言葉を返しました。
彼女の大好きな飼い主の
笑顔がそこにありました。
お姫様に言い返された飼い主は
なんだか嬉しそうに謝ったあと
毎晩彼女に向かって語っていたように
日々の出来事ことをたくさん話してくれました。
とてもとても、幸せそうに
話してくれました。
彼女もまた伝えたいことが
たくさんありました。
ちょっぴり興奮したように、そして
少し得意げな様子で話し出します。
『あなたの大好きな4人の
新しい髪型は見たのかしら?
大胆なイメチェンで坊主にした子がいるわ!
あれにはみんなビックリしていた!
それに彼はテレビ番組の司会まで
こなすようになったのよ!単独で!
頭の回転の早い子だとは思っていたけれど
本当になんでもやってのける子ね!
あいかわらずインスタ
というのかしら?アレを通じて
自分の気持ちを伝えたり
いつも支えてくれるみんなを
とても大切に想っているわ。』
飼い主はニコニコしながら
彼女の話に耳を傾けているので
そのまま続けることにしました。
『あなたの大好きなお兄さんもね
もちろん元気にやっているわ。
しばらく姿をみせずにいたからみんな
本当に心配してね。
最近ではよく笑顔も見せてくれるようになって
安心できる子も増えたみたい。
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ただ笑ってくれているだけで、
幸せでいてくれるだけで幸せ。
あんなにもたくさんの人たちに
そう想ってもらえるのは
あの子自身が本当に素敵だからだと思うわ。
そうよね?』
飼い主は『そうだね』と頷きながら
クスクス微笑んでいます。
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さらに彼女は続けました。
『いつも熱くて優しいあの子。
2月に日本でライブをしたらしいんだけど
その時も彼は大きな声で
あなたの名前を呼んでいたわよ?
本当にあなたのことが好きよね。
彼は本当に頑張っているわ。
犬のわたしからみても感心しちゃう。
ここ最近ね4人がカメラの前で
お話しないといけない機会が本当に
多いようなんだけど、一生懸命話していてなんだか
頼りがいがさらに増したような気がするわね!
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ええ。そりゃあもちろん
相変わらず無敵のハンサムぶりよ。』
夜が一段と深くなっても
まだまだ話しはつきません。
『それからあなたの
愛して病まないあの末っ子!
あの子この前10周年ペンミとやらで
なぜか椅子をぶっ壊してたわ!!
どうしてそんなことが起こるの!?
チリまで飛んでソロステージをこなしたり
ダンスをディレクションする番組にも出演したり
こないだは確かそうね『まぶしい道』という
ステージに登場し自分の気持ちを語っていたようよ。
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これからは幸せになれる瞬間を
できるだけ作っていくのが夢。
こんな話をしたみたい。
これはなんだかそうね。
4人みんなが口にするようになったわ。
幸せでいようと。きっとそう決めたのね。』
嬉しそうに話す彼女を
しばらく撫でながら見つめたあと
飼い主は言いました。
『知ってるよ。全部、知ってる。』
彼女はせっかく教えてあげたのに!と、
拗ねたような態度で
こう言い返しました。
『あら、そんなはずないわ!
最近あなたの姿が見えないからと
泣いている人間を大勢みたわ。
みんなから見えないあなたが
全て知っているだなんて
ありえるのかしら??』
そう言われると飼い主は
少しだけ困ったように笑いながら
『本当だよ。だっていつも
そばにいるからね。』
と、穏やかな声で
ささやきました。
それから夜があけるまで
彼女は飼い主とたくさんの
話しをしました。
驚くことに飼い主は
彼が所属するグループの新しい曲も
完璧に歌い踊る事ができたし、
リーダーが「僕たち5人のメンバーが
幸せでいられるよう活動します」
と話したことも、
彼らが大泣きしながら頑張ったことも
ファンが大泣きしながら見守ったことも
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世界中の人たちが皆
自分を愛してくれていることも
全て全て、知っていました。
あまりにも楽しい時間に包まれて
彼女は彼の腕のなか、ぐっすりと眠りました。
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次に目を覚ましたとき
彼女は川岸にひとりでした。
そこへ遠くから名前を呼ぶ声がします。
家族でした。飼い主の姉が血相を変えて
彼女の元へ走り寄り強く抱きしめました。
姉に抱かれた彼女がふと昨晩
過ごした場所に目をやるとそこには
飼い主が立っていました。
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『次はいつこんな時間を過ごせる?』
彼女は飼い主にたずねます。
『いつだって一緒なんだもん。
すぐにまた会えるよ。』
そう笑顔で返す飼い主の表情に
嘘は一つもないようでした。
『何か伝えることはあるの?
あなたの大切な人たちに何か!』
そう聞かれた飼い主は
じっくりと考えてから
短く彼女に伝えました。
『泣かないで。なるべく
ちゃんと幸せでいて。』
そう伝言を受け取り彼女は
家族に連れられ自宅へと戻りました。
世界中を巻き込んだ大騒動から数日が過ぎ、
テレビからは飼い主の所属する
グループのMVが流れます。
ふと目をやると彼女の目には
飼い主が4人と共にかっこよく踊る姿が
とてもハッキリと見えました。
『あらあら。言ってた通り。
本当にいつも一緒にいるのね。
なのにどうして人間って泣いてばかり
いるのかしら。不思議なものね。』
そう呟き彼女はしばらくの間
流れてくるMVを誇らしそうに
見つめるのでした。
『・・・やっぱりうちの飼い主が一番ね。』
〜お し ま い〜
〜あとがき〜
ただ、わたしが救われたくて書きました。
こんな夜を過ごしていたかもしれないなぁ、
過ごしていてくれていたらいいなぁ、
という妄想と願望です。
人それぞれ信じるものは自由ですがわたしは
このお姫様が家族のもとへ帰る事ができたのは
飼い主さんがそうしてくれたのだと思っています。
これは
世界のどこかで起きた
とても有名なダックスフンドと
寂しがりやで優しくてお姫様のことが
大好きな、ある飼い主のお話です。